受賞者インタビュー



「お堅い警察のゆっくり解説」はいかに生まれたか?

Web・コンテンツ部門 優秀賞

ゆっくり解説によるサイバーセキュリティ啓発動画の配信

作品紹介サイト

サイバーセキュリティアワード2023(授賞式は2024年3月15日に開催)の受賞者に“その後”を聞くインタビュー・シリーズ。Web・コンテンツ部門 優秀賞を受賞した「ゆっくり解説によるサイバーセキュリティ啓発動画の配信」のチームリーダーである埼玉県警察本部 生活安全部 サイバー局サイバー対策課長の友則歩さんは、「サイバー犯罪から県民を守るため、様々な啓発活動に挑戦していく」と気を引き締めている。(聞き手はサイバーセキュリティアワード事務局、以下敬称略)

——サイバーセキュリティアワードに応募したきっかけは?

友則

ある日、新聞を読んでいたら「サイバーセキュリティアワード2023」の募集が始まったという記事をたまたま見つけて・・・。サイバー対策課の取り組みを多くの人たちに知っていただく良い機会になるのではないかと部下に提案したところ「受賞なんて無理ですよ~」という反応だったのですが、ダメ元で応募してみようと(笑)。結果として、優秀賞という望外の評価をいただきました。警察組織外にいらっしゃる方々から認めていただいたことが、とても、とても嬉しかったです。制作に携わった課員の苦労が報われました。

——受賞に対する内外からの反応は?

友則

ネット上では好意的なコメントをたくさんいただいています。その多くが「お堅い警察がゆっくり解説?!」という意外性を面白がってくれたものです。「まさかの埼玉県警公式だった!」「無駄にクオリティが高い!」というネットらしいお誉めの言葉も寄せられています。メディアからも注目いただき、読売新聞さんには受賞を速報していただきました。

「ゆっくり解説」の本家本元である東方project関連のウェブメディア「東方我楽多叢誌」さんには、インタビュー記事を掲載いただきました。

そのご縁で、東方ステーションさんが開催した「あつまれ!東方ステーション2024 inところざわサクラタウン」にブース出展する機会もいただきました。そうしたリアルイベントで「ゆっくり解説」の動画を大型ディスプレイで再生していると、お子さんが気づいて立ち止まり、おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に見てくれるんです。写真を撮ってSNSにアップしてくれる方もいます。お子さんからお年寄りまで幅広い方々に関心をもっていただけたことを実感しています。県警内でも、「あれ面白いね、次も楽しみにしているよ」といった応援や、「あれは、どのようにして作っているのか?」といった問い合わせなどをいただいています。他県の警察本部からの照会もありました。多方面から興味関心を持っていただき、励みになっています。

——サイバー局は2023年4月1日に発足したばかりの新組織ですね?

友則

はい。インターネットなどを利用した犯罪の脅威に対処するサイバー局の立ち上げは、都道府県警察としては初めての試みです(埼玉県警、全国初となる「サイバー局」発足式)。以前はサイバー犯罪対策課という部署で「対策」と「捜査」の両方を担っていたのですが、それぞれを独立させて役割を明確化するとともに、サイバー局全体として連携を密にすることによってサイバー犯罪への対応力を高めることが狙いです。私はサイバー局発足時にサイバー対策課の課長を拝命しました。サイバー犯罪を未然に防ぐための啓発活動や官民連携、人材育成が主な任務です。着任して確認すると、「フィッシュング詐欺にあわないようにしましょう」とか「偽ショッピングサイトに気をつけましょう」とか、サイバー犯罪に対する注意喚起は県警のホームページに漏れなく、しっかり掲載されています。しかし、残念ながら認知度が低くて、県警のホームページを見に来てくれる人はあまり多くはありません(苦笑)。

サイバーに関心のない方も含めて、より幅広く県民にサイバーセキュリティの脅威や対策についてもっと関心・知識を持ってもらうことが、新設されたサイバー対策課にとっての最大の課題でした。堅苦しくなく、老若男女に分かりやすく、印象に残るコンテンツを、ウェブ、デジタルサイネージ、イベントなど様々なチャネルを通して発信し、県民のサイバーリテラシーを高めていきたい。そのためにはどうすれば良いのか——。さっそく課内で検討を始めました。ちょうどその頃のことです。帰宅すると夫が偶然YouTubeで何かの「ゆっくり解説」を見ていたのです。聞けば、様々なシリーズが制作されている大人気コンテンツなのだといいます。かわいらしい二人のキャラクターが会話を交わしながら様々なことを解説するやりとりが展開され、笑い(ギャグ)も織り込まれていて、楽しく学べる。「これは面白い!」と思いました。さっそく課内で相談し、やってみようということになりました。制作を担当してくれた部下にとって「ゆっくり解説」のコンテンツづくりは初めての経験です。それこそYouTubeの解説動画などを見ながらゼロから勉強してくれました。特に気を使ったのは、既に確立されている「ゆっくり解説」の世界観や面白さを損なわないことです。また、写真やイラストなどの著作権の扱いには細心の注意を払いました。「警察が何をやっているんだ」とお叱りを受けるようなことがあってはなりませんから。

——良い意味で警察らしくないチャレンジでしたが、迷いはありませんでしたか?

友則

県民をサイバー犯罪の脅威から守ることがサイバー対策課に与えられた任務です。「ゆっくり解説」はそのために有効だと考えていたので迷いはありませんでした。ただし、“遊び”の要素をどこまで入れるかについては、やはり気を使いました。私はどちらかというとどんどんイケイケ派なのですが(笑)、実際に制作を担当した部下はどこまでやって良いのか内心ドキドキしていたようです。初回コンテンツの公開時はさすがに緊張しましたね。幸いなことにネガティブな反応はほとんどなく、視聴者の皆さんからお褒めの言葉や応援のメッセージをたくさんいただきました。その後順調に制作・配信を重ね、おかげさまでコンテンツは合計10本にまで増えています。

——これからの展開は?

友則

サイバーセキュリティに関して、県民の皆様に知っていただきたいことはまだたくさんあります。お子さんからお年寄りまで、誰ひとり取り残すことなく、リテラシーを高めていただくため、「ゆっくり解説」を含めて様々な手法を駆使していきたいと思っています。私たちは、学校や企業に出向いてお話しする「サイバーセキュリティ講演」という活動も続けています。サイバーセキュリティに関する知識をお伝えするだけでなく、県民の皆さんがどのようなことを不安に感じているのか、何に困っているのかについて聞かせていただく貴重な機会になっています。そうした地道なコミュニケーションを重ねることを土台として、インターネットを活用した新たな広報手法にも挑戦していきたいと考えています。また、警察は人事異動がつきものなのでノウハウの継承も重要な課題です。新しいことに挑戦するマインドセットとともに、しっかりと引き継いでいきたいと思っています。

——埼玉県警のチャレンジに期待しています!ありがとうございました。

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