受賞者インタビュー



お笑いをセキュリティ啓発の新たなスタイルに!

Web・コンテンツ部門 最優秀賞

セキュリティ芸人 アスースン・オンライン

作品紹介サイト

サイバーセキュリティアワード2023(授賞式は2024年3月15日に開催)の受賞者に“その後”を聞くインタビュー・シリーズ。Web・コンテンツ部門 最優秀賞を受賞した「セキュリティ芸人 アスースン・オンライン」さんは、「情報漏洩の約8割は人的脅威によるもの。笑いを通して、サイバーセキュリティのリテラシー向上に貢献していきたい」と意欲を燃やしている。(聞き手はサイバーセキュリティアワード事務局、以下敬称略)

——受賞後、周囲の反応は?

アスースン

同僚や友達から「おめでとう!」っていうメッセージをたくさんもらい、とても嬉しかったです。そして、“セキュリティ芸人”としてもいろいろなところからお声がけをいただくきっかけとなりました。例えば福井県警さんからは2024年7月に開催された『サイバーセキュリティフォーラムin鯖江』にゲストスピーカーとしてお招きいただき、一般の方々を前にセキュリティ漫談を披露しました(福井県警察公式チャンネル)。そのほか、NewsPicksさんやITmediaさんといったネットメディアの配信番組に出演させていただいたりと、サイバーセキュリティアワード2023の受賞をきっかけにして、セキュリティ芸人としての活動の幅が広がったと実感しています。

どこの何者なのか分からない得体のしれない存在だった“セキュリティ芸人”に、アワードというお墨付きをいただいたことで、少し安心して呼んでもらえるようになったのではないかと思っています(笑)

——アワード受賞の目に見える効果ですね!そもそも、「セキュリティ芸人」に挑戦した経緯は?

アスースン

元々、お笑いが大好きでした。そして、同じくらいセキュリティにも興味がありました。それらを掛け合わせたらきっと面白いことができると考えたのが原点です。セキュリティの勉強を始めたのは大学生の時でした。「情報セキュリティスペシャリスト試験(現:情報処理安全確保支援士)」をはじめとするIT系国家資格やCTF(ハッキングの大会)に挑戦していました。セキュリティに興味を持ったきっかけとしては、「セキュリティ・キャンプ」というセキュリティ人材育成のイベントの影響が大きかったです。セキュリティ好きでレベルの高い学生が集まっていて、自由で創造的な雰囲気がそこにはありました。自分も、何かセキュリティに関するクリエイティブなことをしたいと思うようになりました。

セキュリティ・キャンプ:次世代を担う日本発で世界に通用する若年層の情報セキュリティ人材を発掘・育成するための講習・演習を行う合宿形式のイベント、主催は、一般社団法人セキュリティ・キャンプ協議会。

そんな中、大学院生の時に「SecHack365」のセキュリティ啓発コンテンツ・コースに「セキュリティ芸人」という企画で応募してみました。他の応募者は、セキュアなプログラミング言語やOSなどを作ったりしていましたが、自分はセキュリティをお笑いネタにしたコンテンツを作ることを目指しました。お笑い芸人養成所として知られるNSC吉本総合芸能学院から資料を取り寄せたりして、大真面目に企画書を書きました。セキュリティ芸人の企画・プロデュースを目指したのですが、最初はそんなことをやってくれる芸人さんを見つけるのは難しいでしょうから、最初は自分が芸人役となってネタを披露するというプランです。技術系イベントでのライトニングトークのような場を実演機会として活用し、サイバーセキュリティの普及・啓発に貢献していきたいというビジョンを描きました。そうしたら、見事に採用されてしまったんですね(笑)。1年間、ネタを考えて披露したり、動画コンテンツを作ったりと、試行錯誤を重ねて、ものづくりに磨きをかけるという貴重なチャンスをいただきました。ここが自分にとっての養成所のようなものだったと思っています。

sechack365:次世代のサイバーセキュリティを担う人材育成のためのハッカソンプログラム。25歳以下を対象に、1年間のプログラムを実施。主催は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)。

大学院を修了後、自分はお笑いの道に進むことなく(笑)、ゲーム会社に就職してプログラマーをやっています。ただ、「サイバーセキュリティ×お笑い」というアイデアには執着があって、セキュリティ芸人のネタを一般のお客さん向けに修正してR-1グランプリに挑戦してみたのです。すると、なんと1回戦を通過してしまったんです!

R1グランプリ:ピン芸人のお笑いコンクール。主催は吉本興行。

そこからセキュリティ芸人としての活動に弾みがつきました。セキュリティ・キャンプの運営の方からネタをやってみないかとお誘いを受けて、今度はかなり上級者向けに振ったネタを作りこんで披露したんです。それをYouTubeにアップしたら再生回数がものすごいことになって・・・(注:本インタビュー時点で100万回超)。そのコンテンツを、サイバーセキュリティアワード2023に応募してみたところWeb・コンテンツ部門で最優秀賞を頂いた、というのが今に至る流れになります。

——多くの人にとってはちょっと難しいサイバーセキュリティをお笑いというカタチで伝えることへのアスースンさんの思いは?

アスースン

サイバーセキュリティの技術は確かに難しいですし、一般の方々にはよく分からないことが多いかもしれません。しかし、世の中でよく起こっている情報漏洩やセキュリティ事故というものは、その8割くらいが操作間違いや設定ミスといったヒューマンエラーによるものなのです。多くの人は世界で暗躍する悪徳ハッカー集団による攻撃がサイバーセキュリティの脅威だと思っているかもしれませんが、本当に怖いのは使う側の「人的脅威」なのです。高度な安全性を備えた技術を開発しても、使う側のリテラシーが低いままではリスクを抑えることはできないのです。分かりやすい例で言えば、各種パスワードを付箋に書いてパソコンに貼っておくようなこと。これ、お笑いネタとして披露すると一般の人にも上級者にもウケるんです。身に覚えがある人が多いからでしょう。ほかには、サポート期間切れのOSを使い続けているとか、鍵をかけたファイルをメールして追っかけでパスワードをメールするとか、USBに重要データを入れていつも持ち歩くとか(笑)。やってもいいんですよ。でも「脆弱だな〜!」と思いながらやって欲しいです。そういう行いに潜むリスクをきちんと理解した上で、それを許容できるのであれば。 ネタにして、笑いを取って、「こういうことは笑っちゃうくらいダメなことなんだ」という認識を少しでも広めていくことが、セキュリティ芸人としての使命だし、本望だと思っています。

——これからの目標は?

アスースン

セキュリティやハッキングに関するテレビ番組をつくりたいなと思っています。NHKの「魔改造の夜」とか「笑わない数学」とか、広く一般向けというよりは、興味関心を持っている人たちが楽しめるハイレベルで見ごたえのある番組のイメージです。まずは、自分のYouTubeチャンネルで、それに近いコンテンツの制作にチャレンジしたいと思っています。

——夢が大きく広がりますね。今後のご活躍に期待しています。ありがとうございました。

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