受賞者インタビュー



ご縁が繋いだ三者連携、カギは高校生の自由闊達な取り組み

香川大学/平野敏範さん、都島工業高校/杉本諭さん、山岡愛生さんに聞く

excellence_award_img 【企画部門 最優秀賞】

官学連携による「ニセ警察詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺等仮想体験ツール」の開発

大阪府警察本部、大阪府立都島工業高等学校、香川大学

SNS型投資・ロマンス詐欺等、仮想体験教材として、全国20を超える県警察等で活用されている体験ツール

作品紹介サイト

サイバーセキュリティアワード2026の表彰式が3月16日に開催され、大賞1件、部門別最優秀賞4件、審査委員会特別賞1件、部門別優秀賞7件の栄誉が称えられた( 表彰式レポートはこちら )。企画部門 最優秀賞に輝いた 「官学連携による「ニセ警察詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺等仮想体験ツール」の開発」 に携わった 香川大学情報化推進統合拠点サイバーセキュリティセンターの平野敏範 客員教授、都島工業高校の杉本諭教諭とコンピュータ研究部 部長の山岡愛生(あおい)さん にプロジェクトの経緯を聞いた。(聞き手はサイバーセキュリティアワード事務局、以下敬称略)

――皆さん、ご受賞おめでとうございます。まずは本プロジェクト統括役の平野さんに伺います。大阪府警、香川大学、都島工業高校によるプロジェクトチームがどのように組成されたのか、その経緯を教えてください。

平野

香川大_平野さん

私の本業はIT企業のエンジニアで、大阪を拠点に働いています。香川県に赴任していた時、香川大学情報化推進統合拠点サイバーセキュリティセンター長の後藤田中先生(ごとうだ・なか、創造工学部教授)とお話する機会があり、「サイバー詐欺被害​の仮想体験ツールをつくりたい」という点で意気投合しました。それをきっかけに、客員研究員として同センターに受け入れていただいたのです(2026年6月1日より客員教授に)。 後藤田先生は、香川大生によるサイバー犯罪ボランティア活動( SETOKU:SEcurity Team Of Kagawa University )を立ち上げるなど様々な活動を積極的に展開されています。私はというと、テクノロジーを悪用したサイバー犯罪や特殊詐欺が横行する状況に対して「エンジニアとして見過ごしてはいられない」という忸怩たる思いを抱いていました。サイバーセキュリティに関する共通の問題意識がご縁を結んでいただいたのだと思っています。 一方、私は学生時代からずっと柔道をやっていて、多くの柔道仲間が大阪府警に入っています。その仲間たちと集まった時に、香川大学で取り組み始めたサイバー詐欺被害の仮想​体験ツールの話をしたところ、「大阪府警でもそういうツールを開発したいな」という話になり、トントン拍子で府警と香川大の連携へと進んでいきました。 ツールをどのようにつくっていこうかと相談するうちに、プログラミングスキルのある高校生に協力してもらってはどうかというアイデアが浮上します。サイバー教育という観点からも高校生が参画することは望ましいと。私が都島工業高校コンピュータ研究部の技術指導顧問をしていたこともあり、大阪府警、香川大、都島工業高校による官学連携プロジェクトが立ち上がりました。

——ご縁でつながった三者連携だったのですね。ツールの開発はどのように進めたのですか?

平野

2025年2月からアプリ開発が始まりました。最初に、大阪府警の方を高校に招き特殊詐欺の最新トレンドに関する勉強会を実施していただきました。そこでの学びをベースにして高校生たちがアイデアソンをやり、シナリオ・セリフを練り込み、プログラムを作り込んでいったという流れです。大人はあれやこれやと口を出さず、高校生たちの自主性と創造力に任せようという考え方で進めました。私がアドバイスしたのは、プラットフォームとしてLINEを使うということくらいです。LINEアプリならインストールや友達追加の手間暇をかけることなく多くの人たちに使ってもらえるので展開力が断然違いますから。 始めてみると、高校生たちは驚くほどに飲み込みが速くて、全くゼロの状態からスタートだったのにもかかわらず、生成AIをうまく活用して2カ月くらいで完成させてしまいました。

——杉本先生はこのプロジェクトにどのように関わられたのですか?

杉本

都島_杉本教諭

私は都島工業高校で電気電子工学科の教諭をしています。主に電気と情報を教えていて、コンピュータ研究部の顧問も担当しています。平野さんの息子さんの学年担任だったので、入学年の秋に開催した保護者向け学校説明会の際に平野さんと初めてお目にかかりました。その際に、アプリ開発の件について相談を持ち掛けられたのが最初です。 正直なところ、どれぐらいの活動量になるのか、学業で忙しい生徒たちが積極的に参加するかどうか、アプリ開発が本当にうまくいくのか、いろいろと半信半疑なところもありました。でも、平野さんの熱意に満ちたお話を聞くうちに根負けしたというか(笑)、こういう活動に挑戦することは生徒たちにとって良い経験になるはずだし、社会貢献にもつながるのではないかと、前向きな気持ちに傾いていきました。 電気電子工学科の生徒約200人全員に声をかけるよりも、部員30人くらいのコンピュータ研究部で受ける方が動きやすいだろうと考えて、部員に声をかけるとすぐに十数人が「やりたい!」と手を挙げたのです。私の予想以上に生徒たちは興味関心を示してくれたので、部活動の一環としてスタートすることになりました。 さっそく平野さんに来ていただきLINEアプリに関する講習をメンバー向けにやってもらいました。その後、大阪府警さんとの連携も正式に決まり、2026年の年明けに府警の方が学校に来られてプロジェクトが本格的に始動しました。最近大きな問題になっている「SNS型ロマンス詐欺」「SNS型投資詐欺」「闇バイト応募トラブル」「ニセ警察詐欺」の4つのテーマのうち、ロマンス詐欺、投資詐欺、闇バイトを高校生が担当しました。3~5人一組で3チームを編成し、テーマごとに分担しました(ニセ警察詐欺は香川大学が担当)。 山岡くんは「ロマンス詐欺」を担当しました。男性版、女性版に分けて、やり取りの言葉も一言一句まで全部チームメンバーが自分たちで考えたんです。私は全く口を出さずに横で見守っていました。高校生の発想でどんなものができてくるのか、恋愛経験もまだあまりない生徒たちが恋愛感情を巧みに刺激する会話シナリオを試行錯誤している姿がなんとも微笑ましくて(笑)。

——山岡さん、高校生にとって「ロマンス詐欺」はハードルが高くなかったですか?(笑)

山岡

都島_山岡さん

いえ、楽しかったです(笑)。大阪府警の方から最近の詐欺の手口について教えていただき、シナリオの文章をチームメンバーと一緒に考えました。自分なら、どういう言葉で誘われたら“落とされてしまうか”という観点で。3つのチームは仲の良いグループで分けたので、「これ言われたら俺落とされるわー」「これじゃ落ちんな」みたいな感じで和気あいあいと作り込めたと思います。AIを活用して動画を作り、コードを書いてアプリを完成させていきました。3つのチームはそれぞれ違うやり方をしていたのでそれが面白かったですし、他チームの作品を使ってみて「ここはちょっと違和感あるな」とかお互いに意見を言い合いながら改良・改善を重ねていきました。 このプロジェクトに参加して、いろいろなことを知ることができたのは僕にとって貴重な経験でした。詐欺犯罪の現状を知れたのもそうですし、僕たちのような高校生でもこういうアプリを作って社会に貢献できるんだということもそうです。以前は、高校生って勉強して進学して就職するという道のただの一過程でしかないとなんとなく感じていたのですが、高校生でもこういう大きなことができるし、テレビや新聞に出たり、サイバーセキュリティアワードで表彰されたりできるんだということに感動しました。

——ちなみに、「ロマンス詐欺」の女性版に出てくる女性はAIで生成したものだと思いますが、山岡さんの好み?(笑)

山岡

いや、僕の好みではないです。一緒に作った他のメンバーの好みです(笑)。

——コンピュータ研究部の普段の活動は?

山岡

週1回、放課後に1時間半ほど活動しています。C言語、C++、C#、Pythonといったプログラミング言語を学び、ゲームを作成したり、ITパスポートや情報技術者試験といった資格試験の勉強をしたりしています。僕は今部長をやっていますが、学年間の壁をなくして、話し合い、教え合いながら、楽しくモノを作っていければいいなと思っています。

——杉本先生、今回の官学連携プロジェクトは教育の観点からも素晴らしい成果があったようですね。

杉本

はい、相当な学びがあったと思います。 最近の特殊詐欺は未成年者が巻き込まれる事件も多いですから詐欺手口について詳しく知ることができたのが第一、そして学校で学んでいる知識や技術を社会に役立つモノに落とし込むことを実体験できたことが第二、さらに警察の方をはじめとして校外の大人とやりとりしながらブラッシュアップしていく経験を積んだことが第三ですね。たくさんの報道メディアが取材に来てインタビューを受けたりもしました。情報を学ぶ生徒さんってどちらかというと人前で話すことが苦手なんですが、この1年、校内・校外での体験会でプレゼンしたり、メディアのインタビューに答えたり、人間としても成長できたんじゃないかと思います。 また、今回サイバーセキュリティアワードの表彰式(東京丸の内で開催)に参加させてもらって、ほかの取り組みもいっぱい拝見し、とても貴重な刺激をいただきました。生徒たちには授業でアワード受賞作品を紹介したりしています。ほんの小さなアクションですが、「伝える」ことから相乗効果が生まれ、社会全体のサイバーセキュリティ対策が進んでいけばいいなと願っています。

——今後の活動予定は?

杉本

大阪府警さんと連携して第2弾を作成中です。また、コンピュータ研究部という部活動の枠を超えて、電気電子工学科の生徒が課題研究のテーマとして取り組もうという動きもあります。アプリを作ってリリースして終わらせず、利用状況のデータを取り、統計的に分析し、次につなげていく。研究発表を前提として正式な授業に組み込んでいく計画です。普通の高校生のレベルを超えるチャレンジになるかもしれません。

——山岡さんは今3年生ですが、卒業後は?

山岡

卒業したら、高等専門学校に編入したいと思っています。プラス2年学んで電気系のメーカーに就職することが希望です。

——平野先生の次の一手は?

平野

香川大学のお膝元である香川県内でも中学生や高校生を巻き込んだ活動を展開できないか、サイバーセキュリティの普及・啓発という観点から新しいことにチャレンジできないか検討しているところです。

——平野先生、杉本先生、山岡さん、皆さんの新たな挑戦を心から応援しています。このたびのご受賞、本当におめでとうございました。

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