受賞者インタビュー



やられっぱなしは嫌!負けずに会社を元気にしたい

関通ホールディングス 達城久裕会長に聞く

最優秀賞書籍部門2026 【書籍部門 最優秀賞】

サイバー攻撃 その瞬間 社長の決定

達城久裕 著、関通サイバー攻撃対策室 刊

創業社長である著者が、自ら被害企業の当事者として体験したサイバーインシデントの全容を時系列で記録した、リアルドキュメント。

作品紹介サイト

サイバーセキュリティアワード2026の表彰式が3月16日に開催され、大賞1件、部門別最優秀賞4件、審査委員会特別賞1件、部門別優秀賞7件の栄誉が称えられた( 表彰式レポートはこちら )。 書籍部門 最優秀賞に輝いた『サイバー攻撃 その瞬間 社長の決定』の著者、達城久裕 関通ホールディングス株式会社(2026年4月1日、株式会社関通から社名変更)代表取締役会長 に執筆の経緯を聞いた。(聞き手はサイバーセキュリティアワード事務局、以下敬称略)

——書籍部門 最優秀賞のご受賞、おめでとうございます。

達城

関通 達城会長

ありがとうございます。私、小さい頃から表彰なんてしてもらったことありませんでしたから、自分が書いた本で表彰されたことにびっくりしました。周りのみんなも「うわぁ、すごい」って言ってくれました。この表彰で自信が持てたので映画化することにしたんです。今年8月に公開予定です。

——それは存じ上げませんでした(驚)。

達城

今日初めて言います(笑)。

——映画のことは後ほど詳しく伺わせてください。まず、達城さんが経営する関通がサイバー攻撃を受けたのが2024年9月12日。翌年の2025年6月20日には本書を緊急出版されました。経緯を教えてください。

達城

自分が体験したことをできる限り多くの人に伝えるには「本を書くしかない」と思ったのが動機です。出版社に持ち込むといろいろと制約がかかり、時間もかかると聞いたので、自費出版で出しました。僕ひとりで、ChatGPTの手を借りて8日間ぐらいで書き上げてしまいました。デザインはプロに頼み、流通は日販(日本出版販売株式会社)さんにお願いしています。書籍にして良かったと思います。やっぱり書店で手に取ってもらってパラパラと数ページ流し読みしていただくだけでも、何かしらご理解いただける部分があると思います。初版で1万部刷りましたが、在庫は3000を切っているので評判は良いんだと思います(2026年4月末時点)。

——サイバー攻撃の被害について「伝えたい」と思われたのはなぜですか?

達城

他の誰も伝えないからです。サイバー攻撃の被害を受けた企業経営者で、その状況をこれだけ赤裸々に語っている人は皆無です。私たちが被害を受けた時に、前例を調べても情報が出てこなくて、何も分からなくて、経営者としてどうすればよいのか分からず、途方に暮れてしまいました。その経験を伝えなければならないと心底思いました。

——ある種の使命感のような?

達城

そうですね。サイバー攻撃について知っている人は世の中にたくさんいるけれども、それを発信する人はあまりいない。だから正しく発信しようと思ったのです。 もう一つ、世の中におけるサイバーセキュリティの専門家というのは、「調査」の専門家ばかりで「復旧」の専門家はとても少ない。企業がサイバー攻撃を受けた時に必要とするのは、復旧の専門家です。そのこともぜひ伝えたかった。

——現状の問題点に対する警鐘でもあるのですね。それにしても被害を受けてから9カ月くらいでのスピード出版でしたね。

達城

ChatGPTがめちゃくちゃ役に立ちました。サイバー攻撃を受けた9月12日以降の動きをまとめた表があるんです。緊急対策本部で、何が起き、どの事案に対して、どのような意思決定をしたか、ということを事細かく日付ごとにまとめたものです。その表をAIに読み込ませて、私自身のコメントを加えながら作り込んでいったら、この本になったというわけです。

——失礼ですが、会長おいくつですか?

達城

今、65歳です。

——「そのお歳で」なんて言ってはいけないんだと思いますが、それにして最新のツールを使いこなしていますね。それは、会長の性格ですか?

達城

そうですね、アーリーアダプターというか、本当に新しいもん好きで、何かが世の中に出たらすぐ使ってみますね。

——ところで、本書のp.68にある「やったらアカンこと」リストはユニークだなと思いました。「やるべきこと」リストとは真逆ですね?

達城

やるべきことを列挙すればものすごく多くなってしまいますが、「やったらアカンこと」は少なくて済むので、覚えやすいし、伝わりやすい。ずっとそういうふうにしてきています。それは、私自身が22歳から商売をやらせていただいてきて、どうしたら伝わるか、どうしたら社員の行動が変わるかと考え続ける中で、「ああしろ、こうしろ」と細かく指示するのではなく、「これだけはダメ。それ以外は自由」と言った方が伝えやすいし、確実に伝わる。その方がだいたいうまくいくし、大きな怪我をしなくて済むと悟ったからです。サイバー攻撃を受けて大混乱している社内では特にそうでした。

——被災後の極限的状況が続く中で、疲弊する社員の皆さんへのケアにも気を配られましたね。

達城

攻撃を受けてシステムが完全停止してから10日くらいは、システム復旧対応やお客様対応などで、社員の皆さんの頑張りに頼るしかありませんでした。ですが、出口の見えない中での長時間労働にはすぐに限界が見えてきました。まずは緊急措置として、「7連勤を超えた場合は必ず1日休暇を取る」「1日の労働時間は最大10時間まで」「必要に応じて派遣スタッフを増員する」「タクシー代とホテル代を会社が負担する」というルールを決めました。

さらに、役員や管理監督者を含め全社員に対して残業手当を全額支給することにしました。役員・管理職・社員の皆さんに頑張ってもらわないと会社が潰れてしまう。では経営者として何ができるのか。「ありがとう」という感謝の言葉も必要だが、感謝の印としての「お金」も大事ではないか、会社存続の危機に直面している今こそお金の使い時ではないか——。そう考え、「どうか、なんとか、踏ん張っていただきたい、力を貸していただきたい」と祈るような思いで社内にアナウンスしました。 みんな、本当に頑張ってくれました。会社の危機管理を考える上で一番大切なのは「人」であることを、僕自身、改めて学び直させてもらいました。攻撃を受けた2024年9月12日からの1年間で、離職者は一人もいなかったことは嬉しかったですね。

——それは素晴らしいですね。

達城

まあ、それ以降はポツポツ出ていますが(笑)。

——それにしても、顧客への請求データが消えてしまって、請求書が発行できない、つまり現金が入ってこないという状況は厳しかったですね。

達城

はい、大変厳しかったです。ただ、お客様からの減額要求や当社からの請求辞退もあったものの、ほぼほぼ満額の請求をさせていただくことができました。お客様のご寛容とご理解のおかげです。現場の社員も本当に頑張ってくれました。一つには、僭越ながら、お客様の商品をお預かりして運び届ける物流企業として長年のお付き合いをいただく中で当社への信頼を頂戴できていたことがあると思います。もう一つは、お客様ごとに現場社員がきめ細かく対応したことがご理解をいただくことにつながりました。特に緊急度の高いお客様には、オンプレサーバーを持ち込んで運行対応をさせていただき、そして、次はあちら、その次はこちらと・・・。お客様にご迷惑をおかけしないよう必死に頑張りました。

——本書には1カ月以上にわたる貴社の奮闘の様子が、経営トップである達城さんの視点と言葉で時系列で綴られています。そして最終章では「リーダーの覚悟」が非常に重要であること、「この危機をチャンスに変える決意」が示されていますね。

達城

実は私、2025年の春に引退するつもりでいたんです。ところが2024年9月12日にサイバー攻撃を受けてそれどころではなくなってしまいました。1年かけて事後処理を万全にして、 2026年4月1日に持株会社の下に8社の事業会社を置くホールディング体制に移行 し、私は社長を退任し会長となりました。 艱難汝を玉にす——。今回の事件への対応が、会社の体制変更の大きなきっかけとなりました。関通グループはもっともっと成長できるという確信を得られましたし、会社の売り上げはおかげさまでサイバー攻撃前の1.5倍くらいに拡大しています。そして、サイバーセキュリティおよびITガバナンス事業を展開する会社「Cyber Governance Lab株式会社」も立ち上げました。我が社の実体験に基づいた実践的なセキュリティ対策とコンサルティングを提供していきます。

——転んでもただでは起きないというのは会長のことですね、最高の誉め言葉として(笑)。

達城

そう言っていただけると小っ恥ずかしいですけど(笑)。転んだまんまって嫌じゃないですか。事件の犯人は特定もされていませんが、やられっぱなしっていうのも嫌やなと思って。そんなのに負けずに会社を元気にしていきたいっていうのが一番の思いですね。

——ありきたりですが、浪花の商人(あきんど)の心意気なのでしょうか。

達城

いやいや(笑)。僕、ビジネスが好きなんですよ。今、新規事業にいっぱい取り組んでますし、人と触れ合っていろんなビジネスが出来上がっていくことに一番の喜びを感じるんですよ。今年で66歳になるんですけど、第一線でやれるとこまでやりきりたい。会長に退かせてもらいましたが、頭の中は新規事業のアイデアでいっぱいなんです。

——本書のタイトルに「社長の決定」という文言が入っているように、その時、経営トップが判断し決断しなければならない。しかし、社長も生身の人間だし、サイバーのことを全部分かっているわけでもない。何を「決定」の拠り所にしたのですか?

達城

そこはもう明確で、「お客様やったらどう考えるのか?」ということなんです。関通の社長として考えるんじゃなくて、お客様やったら何をして欲しいんかを考え抜くことに尽きますね。ですから、現場の社員には「お客様にこれで合ってますか?」って聞いてくれと頼みました。答えはお客様が知っているんです。

——最初に伺った映画には、会長も出演されるんですか?

達城

いえ、僕は出てません(笑)。プロの俳優さんにお願いしています。当社スポンサーの自主製作映画で、題名は『全停止』です。

——怖いタイトルですね。

達城

怖いでしょ~(笑)。30分の短編で、経営者向けの内容です。いい感じで仕上がっています。エンドロール見たら感動して泣けてきました。いろんなところで上映会をやって、映画祭にもどんどん出していこうと思っています。次回のサイバーセキュリティアワードにも応募したい(笑)。 実は、、、映画化の話を言い出したのは私が行きつけの店の女将なんです。その女将が脚本家もやっていて、私の本を読んだら「これ、映画にしたい」と。「おお、そうか、どんどんやってくれ」と盛り上がって即決です(笑)。

——今回の件で、いろいろなご縁が広がりましたね。

達城

ありがたいことです。僕自身はめちゃくちゃ苦痛を味わいましたけど、その分を取り返すためにも「働く喜び」を自分でしっかり作っていかなあかんという思いですね。もうちょっと楽しい思いさせてよ、みたいな(笑)。講演会で話してくれというご依頼も多くて、5月には、慶應丸の内シティキャンパス主催の『夕学(せきがく)講演会』に呼んでいただき、 「ランサムウエアからの復活。その時、経営者に問われた「意思決定」の本質」 というテーマでお話させていただきました。凄い有名人ばかりのシリーズに加えていただいて、びっくりしました。 自分で言うのもなんですが、今回の経験を通して、人として強くなれたというか、他人(ひと)にも自分にも優しくなったというか、この歳になって初めて気づくことが多かった。これからますます「仕事を楽しみ倒す」ということを実践していきたいですし、後継社長であるうちの長男にもしっかり引き継いでいきたいと思っています。

——達城会長のますますのご活躍を楽しみにしております。今回のご受賞、おめでとうございました。

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