みんなで守る!サイバー共助の考え方を広めたい
ハッカーかずさんに聞く
——Web・コンテンツ部門 最優秀賞のご受賞おめでとうございます。受け止めは?
かず
アワードにノミネートされたという連絡メールが届いた時、もう嬉しくて嬉しくて、夜遅かったので妻はもう寝ていたのですが、たたき起こして「ついにやったぞ!」と言ったら、妻は嬉し泣きしていました。 サイバーセキュリティはニッチなジャンルで、「表彰」なんて話には全く縁がありませんでした。YouTubeチャンネルを約6年頑張って続けてきて、ようやく公に認めてもらえたことが本当に嬉しくて、夜中だというのに小躍りしてしまいました(笑)。その勢いで、ノミネート報告のYouTube動画もつくってしまいました。 サイバーセキュリティアワードでノミネート!!! - YouTube
——表彰式は羽織袴で気合が入っていましたね。
かず
過去2回の表彰式の写真を見ると受賞者の皆さんはきちっとした格好をされていたので、スーツだと埋もれてしまうな、と(笑)。お祝いの晴れ舞台ですし、YouTuberとしては一番目立つ格好でステージに立ちたいと思いました。 表彰式当日の様子もすぐに編集して動画にしました。Web・コンテンツ部門 最優秀賞ということで、友人たちも視聴者の皆さんも凄く喜んでくれて、お祝いの言葉をめちゃくちゃもらって、気分は最高でした! ハッカーが6年間YouTubeを続けた結果【最優秀賞】 - YouTube
——ノリノリですね!ありがとうございます。ところで、そもそも、かずさんって何者なんですか?
かず
社会人になって最初に任されたのがサーバー管理の仕事でした。大学時代はプログラミングしかやってなかったのでネットワーク系の知識はほとんどありませんでしたが、毎日毎日外部から攻撃が来るので、どうやって守ればいいのかというところから勉強を始めました。サイバーセキュリティって「みんなの知らない世界」みたいなところがあって知識欲を刺激されましたね。その後、攻撃側の視点からのテクニックも知りたいと思ってセキュリティ診断やペネトレーションテスト(システムやネットワークの脆弱性診断)などをやっている会社に転職しました。お互いにコードネームで呼び合うハッカー集団みたいな面白い職場でいろいろなことを学ばせてもらいました。 そして、サービス開発を経験した後、セキュリティコンサルタントとして独立しました。そうこうするうちに、コロナ禍で世界中が大変なことになってしまって、時間的に余裕があったので、趣味と実益を兼ねてYouTubeを始めたという流れです。 きっかけは、妻がフィッシング詐欺に引っかかりそうになったことです。どこかのサイトにアクセスしたら「おめでとうございます!1億人目の訪問者です!iPhoneをプレゼントします!!」みたいな画面が出てきたらしく、それを僕に見せてめちゃくちゃ喜んでるんです。マジで信じてました(笑)。僕はそんなの詐欺だって分かっているので、妻が無邪気に喜ぶ姿を撮って「これはこういう類の詐欺で、クレジットカード情報を入力したらお金を盗られちゃいます」みたいな解説を加えた一本の動画にしたんです。妻の残念がるリアクションが面白そうだったので遊び半分の気持ちで。それを見せたら、妻はがっかりしていましたが、「これ、YouTubeにアップしたらウケるんじゃない?私みたいに騙されちゃうような人たちのためにもなるし」って言うんです。その瞬間がYouTuberとしてのスタートラインでした。 最初からずっと二人でやって来たチャンネルなので、妻はサイバーセキュリティアワードの表彰式にものすごく出席したがっていたんですが、子供がまだ生後7ヶ月で面倒を見なければいけなかったので残念ながら自宅からオンライン生中継を見ていました。
——「ハッカーかず」というネーミングの由来は?
かず
「セキュリティコンサルタント かず」というようなネーミングだと、堅いし、インパクトが弱いな・・・と。ハッカー集団みたいな職場で働いていたこともあり、ハッキングの手口もいろいろ知っているので、ストレートに「ハッカーかず」にしようということになりました。ハッカーとは言っても悪者ではなく正義のホワイトハッカーのほうで(笑)。
——2020年からの6年間、山あり谷ありの道のりだったのかなと想像しますがいかがでしたか?
かず
趣味の延長みたいな感じで始めたので最初の数本は“顔出し”もしていませんでした。パソコンの画面を録画して音声を当てるみたいな感じで、あまり再生回数は伸びませんでした。見られなきゃ意味ないなと思って、開き直って顔を出して・・・でも登録者は少しずつしか増えませんでしたね。 起爆剤になったのは当時めちゃくちゃ流行っていたTikTokです。Amazon公式になりすましたフィッシング詐欺に関するショート動画を作ったら150万回ぐらい再生されて、YouTubeチャンネルの登録者数も一気に1000人を突破しました。それをきっかけに、面白い企画をもっとつくってアップしようと気合を入れ直しました。 中古USBメモリを100本買ってきて、その中身を復元したら何が出てくるかみたいな企画はウケましたね。いろいろヤバイものが出てきちゃったのでモザイクをかけながら(笑)。ランサムウェアの被害に遭った人にインタビューしたり、最近よく見る“陰謀論”みたいなものを絡めてみたり、アサヒビールさんやアスクルさんの事件のような時事ネタを速報的に扱ってみたり、、、知恵を絞り、試行錯誤の積み重ねです。でも、チャンネル登録者数が1万を超えるまでかなり時間がかかりました。 いろいろなコンテンツをつくりましたが、ウケるのは視聴者個人に直接関係する内容です。例えば、Instagramアカウントの乗っ取りがめちゃくちゃ流行った時期があって、その仕組みや対処方法を教える企画はすごく反応が良かった。ワンクリック詐欺に引っ掛かってみた企画なんかもやりました。中高生などは被害に遭っても親にも相談できない、友達にも隠しておきたいということが多いので、YouTubeにコンテンツがあったら少しは助けになるんじゃないかと思って。 ただ、僕としては被害に遭った後にどう対処するかも大事だとは思うんですが、被害に遭わないように未然に防ぎたいという想いがある。でも被害を受けて痛い目に遭わないとなかなか「自分事」にはならないというのが現実です。専門用語を使って小難しいことばかり話しても一般の人たちは観てくれません。気軽に楽しめるエンタメ的コンテンツをつくって、その中にさらりと学びの要素を盛り込む——。それが僕の基本的なスタイルなのです。
——大変失礼な言い方かもしれませんが、かずさん、見た目と違ってもの凄く真面目に考えていますね(笑)。
かず
ありがとうございます(笑)。フィッシング詐欺はたいてい海外から仕掛けられているのですが、そういうことをする悪い奴らに普通に暮らしている日本人が騙されてお金を盗られるっていうのが許せないんですよ。僕、日本を愛しているので。あとは、単純にサイバーセキュリティって面白いんですよね。新しい手口もどんどん出てきますし、人の裏をかく心理戦みたいな側面もあって。そうした面も多くの人に知ってもらい、セキュリティ意識を高め、日本人が稼いだ大切なお金を騙されて海外に流出させることを防ぎたいと本気で思っています。
——奥さんも出演されています。息の合った素晴らしいコンビですね。
かず
僕もそう思っています(笑)。妻は、サイバーセキュリティに関してはずぶの素人です。一般視聴者に近い目線から、分からないこと、感じたことを自由にコメントしてもらっています。 僕ひとりでやっていたら「こんなの知ってて当たり前」みたいな感じで専門知識の一方的な説明で終わっちゃいかねないのですが、全く前提知識のない妻から一つひとつ突っ込んでもらうことによって視聴者を置いてけぼりにせずに済んでいます。めちゃくちゃ助かっています。
——面白い企画をつくり続けるのも大変ですね?
かず
今は、毎週水曜日と土曜日の2回のペースでコンテンツを公開していますが、自分たちが「これは面白い!」と思っていても、視聴者には全然ウケないということも少なくありません。一般の視聴者は、生活に身近なこと、自分に関係あることでなければ興味をもってくれません。大事だからといって、いきなり「DoS攻撃の説明をしまーす」なんてやっても、誰も見てくれません。「犯人は会社に恨みを持っていた元社員で、復讐のために会社のシステムをダウンさせた。その攻撃に使われた手口がDoS攻撃で」というような、誰にでも分かりやすいストーリーをフックにすることを意識しています。 サイバー犯罪の手口はどんどん新しいものが出てきます。例えば、PayPayで支払いをする時に読み取るQRコードが悪意をもって別のものに張り替えられていたら・・・。そうしたセキュリティの脅威は身近なところにいっぱいあるんです。ニュースサイトやXをチェックしていると面白そうなネタがごろごろしています。
——今後、「ハッカーかずの部屋」はどうなっていくんですか?
かず
6年やってきて、振り返ると、YouTubeをやっていたからこそいろんな人と出会い、ご縁をいただきました。こうしてインタビューをしていただいているのもそうですし、「うちの大学で講演してもらえませんか?」みたいな依頼が飛び込んできたり、全国でパソコン教室をやっている人から「一緒にセキュリティの教材を作りましょう」みたいな相談があって実際に書籍を出したり。普通にセキュリティコンサルタントをやっているだけだったら知り合えなかった方々とつながることができました。そういう繋がりはこれからもどんどん広げていきたいですね。 サイバーセキュリティアワード表彰式後の懇親会でも、同じ志をもったいろいろな領域の方々と交流させていただき、良い刺激をいただきました。サイバーセキュリティに関する一般の人たちの意識を高めていくため、新しいことにもっと挑戦していきたいと改めて思いました。チャンネル登録者数がまだ1.3万人くらいのYouTubeチャンネルですが、サイバーセキュリティの知識というのは日本人全員が身につけるべきものですから1億人に登録してもらってもおかしくないと思っています。 これ、けっこう真剣に考えていて・・・。コロナの時、日本人はすごく律儀にマスクをしたじゃないですか。あれ、「うつりたくない」という気持ちはもちろんですが、「人にうつしたくない」という面がけっこうあったと思うんです。サイバーセキュリティも同じで、「自分がやられると他の誰かに迷惑をかけちゃう」っていうことに気づいたら日本人はやると思うんですよ、「みんなのためのサイバーセキュリティ」っていうイメージで。そういう日本の文化的な強みみたいなものも意識したコンテンツをつくっていきたいです。
——最後に一言お願いします
かず
サイバー犯罪の手口は巧妙化しています。またAIの高度化でディープフェイクがネットに氾濫しています。もはや他人事ではないのです。車を運転する時に免許が必要であるように、パソコンやスマホでネットワークに繋がるには基本的な講習を修了しなければいけないとか、そういうことも考える段階に入っているのかもしれません。そして、「個人個人で守る」という自助努力は不可欠なのですが、誰かが気づいたらみんなに共有し「みんなで守る」という共助の考え方も大切だと思うのです。みんなで一緒に底上げしていく。そういう流れが広がれば良いなと思いますし、僕自身、流れづくりに貢献できるよう頑張っていきます。
——かずさんの高い志に感銘を受けました。改めて、今回のご受賞おめでとうございました。
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ハッカーかずの部屋
「サイバーセキュリティを日本一わかりやすく、かつ、楽しく」をモットーに、難解になりがちなサイバーセキュリティのイメージと知識を、エンタメ要素を交えてわかりやすく解説したYouTubeチャンネル
作品紹介サイト
サイバーセキュリティアワード2026の表彰式が3月16日に開催され、大賞1件、部門別最優秀賞4件、審査委員会特別賞1件、部門別優秀賞7件の栄誉が称えられた( 表彰式レポートはこちら )。 Web・コンテンツ部門 最優秀賞に輝いた「ハッカーかずの部屋」を運営するハッカーかずさん に、6年にわたるYouTubeチャンネルの運営について聞いた。(聞き手はサイバーセキュリティアワード事務局、以下敬称略)