人の弱点を知ることからセキュリティ啓発は始まる
ラック 吉岡さんに聞く
——Web・コンテンツ部門 優秀賞、おめでとうございます。
吉岡
2020年から約5年間携わってきたので、このようなアワードをいただけたことをとても嬉しく思っています。「情報リテラシー啓発のための羅針盤(コンパス)」は、情報セキュリティ分野の様々なトラブルを3分野37項目に分類し、網羅的・体系的にまとめたテキストブックです。2019年にできた、その枠組みを前任の方々から引き継ぎ、改訂を重ねてきました。 2020年頃を振り返ると、学習指導要領が新しくなったり、GIGAスクール構想が推進されたり学校現場での大きな変化があったほか、バイトテロ、不適切投稿などがネットで炎上し、社会問題になり始めていました。情報セキュリティの啓発活動の重要性も急速に高まっていました。地域やコミュニティで普及啓発活動に取り組む方々の助けになるような分かりやすい教科書が必要だという思いで取り組んできました。
——この活動は、情報セキュリティ企業であるラックとしてはどのように位置づけているのですか?
吉岡
私たちのチームは サイバー・グリッド・ジャパン という研究部門に属しています。2014年に設立された組織で、「スレットインテリジェンス技術の研究・開発」「ナショナルセキュリティ情勢の調査」「利用者への啓発」「団体運営」「金融犯罪対策」 といった活動を通して、日本のサイバーセキュリティの成熟・すそ野拡大に寄与することを目指しています。「情報リテラシー啓発のための羅針盤(コンパス)」は、子供からお年寄りまで幅広い方々の情報リテラシーを底上げすることを目的としたプロジェクトとなります。
——どのような体制で制作しているのですか?
吉岡
社内のチームメンバーと監修をお願いしている社外の専門家の先生方を合わせて6人くらいの体制となります。私自身は、官公庁が公開している統計データ、特に警察庁が発表しているサイバー犯罪関連の情報や注意喚起などを丹念にチェックしています。新しい形態のサイバー犯罪が増えて注目が集まってきた時、コンパスの分野・項目の中でどこに位置付けるべきか、複数の項目にまたがるような場合にどうしたら分かりやすくなるかなど、見せ方を検討してしいます。 この分野は変化がとても速いので、抜け漏れがないよう緊張感をもってウォッチしています。メディアで報道される最新ニュースをチェックすることはもちろんなのですが、官公庁による集計や統計が出るのを待ち根拠となるデータと合わせて掲載するようにしています。
——吉岡さんはどのようなご経歴ですか?
吉岡
ラックには10年前に入社して、メール訓練サービスを担当していました。マルウェア感染やフィッシング詐欺を狙ったメールを模した疑似メールを作り、それを訓練対象者に配信し、開封状況などのデータを収集して報告します。訓練対象者の現状のリテラシーレベルを知り、対策を打つための診断サービスです。 当時を振り返って思うのは、知識はあるのに何らかの原因で意識が希薄になることが被害の原因のひとつになるということでしょうか。対策で重要なことのひとつは、そうした人の意識にどのように働きかけるのか、ということなのかなと思います。 「コンパス」を制作する仕事も人の意識の部分を啓発するということですから、その点で繋がっているなと感じますし、私自身に合っていると思っています。攻撃する側は人間の弱点を狙ってきます。その弱さを知ることが出発点として、知っておくべき情報を丁寧にお伝えできるような啓発スペシャリストを目指しています。
——今後の展開については?
吉岡
「コンパス」のメジャーアップデートを予定しています。ICTを安全に活用していただくため知っていただきたいトピックを追加していくことを考えています。新しいICTサービスが次々に登場するので追いついていくのも大変ですが、有効活用してメリットを享受できれば生活は豊かで充実したものになります。ICTを楽しく使うために必要な心構えを、前向きなメッセージとして送り出していきたいです。 そして、地域・コミュニティでの啓発活動のためのテキストブックとしてもっともっと活用していただきたいと願っています。例えば、 長崎県警察によるサイバーセキュリティボランティア事業 は長崎県内の高専生・高校生が地域の小中学校で情報リテラシーについて教えるという活動ですが、教材スライドを作るためのテキストブックとして「コンパス」を使っていただいています。私たちメンバーも現地に行ってお手伝いしています。そういったフィールド活動にさらに力を入れていきたいと思っています。
——とても広がりがある活動になりそうですね。あらためまして、今回のご受賞おめでとうございました。
他のインタビュー
-
Interview File No.8
官民連携が生むセキュリティ啓発のベストプラクティス
井上太郎/野口敏彦
-
Interview File No.7
すそ野を広げなければ山は高くならない
野溝のみぞう
-
Interview File No.6
メタバース空間でサイバーセキュリティを学ぼう
山川祐吾
情報リテラシー啓発のための羅針盤(コンパス) 第2.2版
制作:株式会社ラック
情報セキュリティ分野を含め、インターネットトラブルを3分野、全37項目に分類し、網羅的・体系的にまとめたテキストブック。関係法令や罰則、影響度などについても触れ、2019年の初版以来毎年改定を加えてきた。シリーズ累計約12,600冊を無償で配布し、教育現場、様々な組織の研修教材として活用されてきた。
作品紹介サイト
作品紹介サイト
サイバーセキュリティアワード2025の表彰式が3月3日に開催され、大賞1件、部門別最優秀賞4件、部門別優秀賞9件の栄誉が称えられた( 表彰式レポートはこちら )。Web・コンテンツ部門 優秀賞に輝いた「情報リテラシー啓発のための羅針盤(コンパス) 第2.2版」の制作を担当した 株式会社ラック サイバー・グリッド・ジャパン ICT利用環境啓発支援室 啓発企画グループの吉岡さん に受賞の受け止めを聞いた。(聞き手はサイバーセキュリティアワード事務局、以下敬称略)