受賞者インタビュー



メタバース空間でサイバーセキュリティを学ぼう

DNP 山川祐吾さんに聞く

excellence_award_imgWeb・コンテンツ部門

「警視庁サイバーセキュリティセンター」をバーチャル秋葉原に開設

提供:大日本印刷株式会社

「警視庁サイバーセキュリティセンター」(警視庁サイバーセキュリティ対策本部の委託事業)は2023年9月、大日本印刷(DNP)が提供するメタバース空間「バーチャル秋葉原」内に開設された。一般向けにはサイバーセキュリティに関する学習コンテンツ、警視庁職員等向けにはインシデント対応を学ぶサイバーセキュリティ訓練を提供している。

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サイバーセキュリティアワード2025の表彰式が3月3日に開催され、大賞1件、部門別最優秀賞4件、部門別優秀賞9件の栄誉が称えられた(表彰式レポートは こちら)。Web・コンテンツ部門 優秀賞に輝いた「「警視庁サイバーセキュリティセンター」をバーチャル秋葉原に開設」を担当した 大日本印刷(DNP) コンテンツ・XRコミュニケーション本部 XRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部 企画第1グループ リーダー 山川祐吾さん に、プロジェクトの舞台裏を聞いた。(聞き手はサイバーセキュリティアワード事務局、以下敬称略)

——Web・コンテンツ部門 優秀賞、おめでとうございます。

山川

ありがとうございます。このプロジェクトには強い思い入れがあって、サイバーセキュリティアワード2025には私自身が応募しました。それだけに、受賞できたことは本当に嬉しいです。上長やプロジェクトメンバーもとても喜んでくれましたし、委託元である警視庁さんからも祝福の言葉をいただきました。何よりも、場所や時間の制約を受けず、心理的ハードルも軽減し、リアルに近いコミュニケーションを通して学べるというメタバースの特徴を評価いただけたことに感激しています。

——山川さんが所属しているXRコミュニケーション事業開発ユニットというのは、どういう部門なのですか?

山川

DNP山川さん

2021年に発足した新事業部門です。 DNPではVR(Virtual Reality、仮想現実)の制作に1990年代から取り組んできました。これに、AR(拡張現実)、MR(複合現実)を加えたXR(Extended Reality / Cross Reality)技術を駆使して新しいサービスを産み出すことをミッションにしています。以前はコンテンツ制作中心だったのですが、コミュニケーションの比重を高め、時間、場所、心理的制約を超えて人と社会をつなぐ新サービスの創造を目指しています。 これはまさに、DNPグループの企業理念「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。」に基づいたものです。紙で培った印刷技術を基盤として、IT(情報技術)やインターネットというデジタル領域にも対応してきました。そうした展開を私たちは「プリンティング&インフォメーション(P&I)」と呼んでいます。 今回の「警視庁サイバーセキュリティセンター」および「バーチャル秋葉原」の取り組みは、媒体こそメタバースという仮想の3D空間ですが、目指していることはこれまでと変わりなく、情報や知識を広く伝えることによって人と社会をつなぎ、これまでにない新しい価値を生み出すことを目指したものです。 XRは、DNPにとっての最先端事業領域であり、中期経営計画でも注力事業に位置付けられています。2024年4月には、先行的に立ち上がっていた複数の事業ユニットを統合してコンテンツ・XRコミュニケーション本部が発足しました。

——今回の「警視庁サイバーセキュリティセンター」の実現に至った経緯は?

山川

XRコミュニケーション事業ユニットでは、地域の魅力発信、人材育成、行政サービスなどにメタバースを活用する様々な施策を、自治体、官公庁、民間企業とともに取り組んでいます。その一環として、2022年にはDNPの自主事業として 「バーチャル秋葉原」 をオープンしました。秋葉原の街をデジタルツインで仮想的に再現し、そこを拠点として日本の文化や魅力を国内外に発信するのが狙いです。 AKIBA観光協議会 の公認もいただいています。 一方、DNPでは2016年からサイバー攻撃対策要員を育成する 「サイバーナレッジアカデミー」 というサービスを提供しています。CSIRT(Computer Security Incident Response Team)などの実務者や経営層に向けた講習も行っています。 これら二つの事業―メタバースでの情報発信とサイバーセキュリティ人材育成―の実績を評価いただいた結果、バーチャル秋葉原の中に警視庁サイバーセキュリティセンターを開設させていただく運びとなりました。一般の方々にサイバーセキュリティについて学んでいただけるオープンなスペースに加えて、警視庁の職員の皆さん向けのサイバーセキュリティ研修を提供するクローズドスペースがあります。こちらはメタバースの機能をフル活用して、複数人がチームになってロールプレイング形式で実践演習する本格的なものです。 ちなみに、バーチャル秋葉原はデジタルツインで正確に秋葉原の街を再現していて、警視庁サイバーセキュリティセンターは現実の万世橋警察署がある場所に位置しています。リアルとバーチャルが限りなく接近し重なり合った空間だと言えます。

——かなり先端的かつチャレンジングな試みだと思います。警視庁さんは、よくぞ決断されたなと感心します。

山川

はい、素晴らしいご判断だと思います。私が知る限り、他の46道府県でメタバースによるサイバーセキュリティ演習を取り入れているところはまだありません。全国に先駆けた非常に意欲的な取り組みです。

——今後についてはいかがですか?

山川

DNP山川さん2

警視庁サイバーセキュリティセンターの認知度をより高めていきたいと考えています。自治体、企業などとも連携・協力しながら、バーチャル秋葉原という仮想空間をもっともっと活用していただき、賑わいを生み出していきます。より多くの方々がセキュリティセンターに立ち寄っていただけるような人の流れを作っていきたいと思っています。 例えば、全国の自治体に警視庁サイバーセキュリティセンターを学びの場として使っていただくのも一案です。全国の自治体が作成している「総合計画」には、最近では必ずと言っていいほどサイバーセキュリティ対策が項目として盛り込まれています。住民の皆さんの意識向上・啓発活動が主な施策になりますが、そのためにはまずは自治体職員の方々がサイバーセキュリティについてしっかり学ぶ必要があります。物理的、時間的な制約を超えられるメタバースを研修スペースとしてぜひ使っていただきたいと思います。 一般住民の方にも活用していただきたいですね。警視庁サイバーセキュリティセンターのコンテンツは子供にも分かりやすく平易につくられています。チャット機能、音声による会話機能などもありますから、仮想空間の探索を楽しみながら学びも深められるようになっています。大人よりも子供たちのほうが面白がってくれるかもしれません。 サイバーセキュリティは難しくて堅い内容が少なくないので、多くの方々に興味関心を持っていただけるような仕組み・仕掛けが必要です。XRの活用によって、誰一人取り残されないサイバーセキュリティの学習環境を提供していきたいと思っています。

——DNPさんの今後のチャレンジに大いに期待しています。今回の受賞、おめでとうございました。

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