個人の力と組織の力で持続可能なサイバー広報へ
長崎県警 佐藤修一さん、濵﨑椎南さん に聞く
——企画部門 優秀賞、おめでとうございます。受賞の受け止めは?
濵﨑
2024年はLINEの運用を重点的に担当させていただいたので、このようなかたちで評価いただけたことはとても嬉しいです。職場の上司から「よく頑張った」と言っていただきましたし、いろんな方からお祝いの言葉をいただいています。
佐藤
私は、今回のLINE企画の内容を確認して決裁する立場にあります。濵﨑さんをはじめとする担当係がいろいろと知恵を絞り、アイデアを出し合い、創意工夫を重ねてきた様子をずっと見てきました。そうした現場の努力が評価され報われたことをとても嬉しく感じています。
——LINEアカウントを拝見しましたが、良い意味で手作り感にあふれた優しいコンテンツだなと感じました。
濵﨑
そう言っていただけると、とても嬉しいです。4月には背景に桜を散りばめて季節感を出したり、イラストなどの素材のほとんどは手作りです。 フリー素材にあまり頼らず、オリジナルにこだわっています。というのは、サイバーセキュリティの内容はどうしても硬くなりがちなのですが、情報を正確に伝えるためにはやむを得ないところもあります。ですから、せめてイラストやデザインの部分は柔らかく優しくして、県民の方が少しでも関心をもっていただけるよう、あえてオリジナリティーのある要素を取り入れたいと思っています。
佐藤
濵﨑さんはイラストや漫画を描くことが得意で、その才能を広報・啓発活動に生かしてもらっています。一般的に、警察に対しては「お堅い」「とっつきにくい」といったイメージもあると思いますが、その壁を越えていかに伝えるかが我々の課題なのです。県民の皆様に見ていただく、知っていただくことが第一ですから、親しみやすいキャラクターを活用したり、ゲームやクイズなどの要素を取り入れたり、ちょっとした遊び心も必要だと思っています。もちろん、ふざけ過ぎてはいけません。度合いの見極めが大切です。
——濵﨑さん、理解のある上司でやりやすいですね(笑)
濵﨑
はい。キャラクターなども一緒に考えてもらっているので感謝しかありません(笑)。
——サイバー犯罪に対する広報活動において、長崎県ならではの工夫、お国柄というものはありますか?
濵﨑
やはり、日本一の多島県であるという地理的特性があると思います。対馬島、壱岐島、五島列島をはじめとする島しょ部で10万人以上の県民が生活を営んでいます。そうした方々を含めて広くサイバーセキュリティに関する情報をお伝えするためのツールとして、このLINEアカウントはとても重要だと思っています。 最近、離島の住民の方々からもサイバー犯罪に関するご相談が増えています。離島が多い長崎県だからこそ、LINEアカウントは県内の隅々まで大切な情報を伝えるために不可欠なツールになっています。
——濵﨑さんがLINEアカウントの運用を担当することになった経緯は?
濵﨑
私は、一般事務職として長崎県警に入り、警務部門に6年勤務した後、令和3(2021)年にサイバー犯罪対策課へ異動になりました。あと4カ月で産休入りというタイミングでした。限られた時間で広報を重点的にやりたいなと思っていたので、既に令和元(2019)年に開設されていたLINEアカウントの運用を引き継がせてもらったのが始まりです。 その後産休に入り、復帰後も係を出たり入ったりしていたのですが、令和6(2024)年度はLINEアカウント運用をメインにやらせていただきました。職場の皆さんのご理解とご協力をいただいて、公式キャラクターを自作して活用したり、LINEを使ったサイバー広報に全力投球しました。 また、私にとって、令和7(2025)年度は勝負の1年です。LINEを含む様々なサイバー広報において、新しいことに挑戦し、やり切りたいと思っています。
——濵﨑さんの熱いチャレンジ精神がビンビン伝わってきました。その熱量を組織としていかに引き継いでいくかが課題になりそうですね。
佐藤
公務員には頻繁な異動がつきものですから、新しい施策に取り組むとき、継続性の観点から属人的になり過ぎないように気を配る面があります。濵﨑さんのようにイラストを描いたりすることが得意な職員ばかりではありませんし、異動があれば施策が途切れてしまうかもしれません。引き継いで、長く続けていくということは重要な課題です。でも、だからと言って当たり障りのないことばかりやっていたら県民の皆さんに大切な情報が伝わらないということになりかねません。濵﨑さん個人の意欲やアイデア、才能、頑張りがあったからこそ、長崎県警のサイバー広報が元気づいたというのも確かなのです。
濵﨑
実は、先ほどこの1年が勝負の年と言ったのはそういうことも含めてなのです。どう引き継いでいくべきか、どうすれば担当者が代わっても持続できるか、私自身もいろいろと考えています。
——サイバー広報に関して、他の県警さんの施策を参考にするようなことはありますか?
佐藤
そうですね、例えば前回のサイバーセキュリティアワード2023でWeb・コンテンツ部門 優秀賞を受賞された埼玉県警さんの「ゆっくり解説によるサイバーセキュリティ啓発動画の配信」を初めて見た時はちょっと驚きましたね。警察の発信コンテンツとしてはとても斬新で、良い意味で振り切っているなと思いました(笑)。ああいった先例をつくっていただくと、後に続く我々としては安心感をいただけると言いますか、「ここまでは行ける」といった基準のようなものになります。埼玉県警さんは今回のサイバーセキュリティアワード2025でも受賞されていて、とても良い取り組みをされているなと感心しています。 警察の情報発信ですから度が過ぎると“炎上”してしまうかもしれません。かといってお役所的な堅物コンテンツでは県民の皆さんに興味をもっていただけない。そのあたりのさじ加減について、他県警さんの活動を参考にさせていただきたいと思っています。各県警がいろいろな施策を試みて、サイバーセキュリティ広報のレベルが上がり、日本全体でサイバー犯罪の被害に遭う方がゼロに近づくならば、それが一番の理想とするところです。各県警が切磋琢磨し、また互いに協力して、前進していければ良いと思います。
——あらためて、今後のサイバー広報のビジョンについては?
濵﨑
先ほども触れたように、もう来年はないという覚悟をもって引き継ぎについて真剣に考えています。特にイラストやキャラクターについては協力してくださる方を探すことが必要になってくるかもしれません。LINEアカウントの友達登録数をもっともっと増やすため、広報アイデアをたくさん捻り出して、半年後、1年後、3年後に実現していったら良いなと思います。持続可能なサイバー広報を目指して、精一杯頑張ります。
佐藤
闇バイトが社会問題になっていますし、ゲームアプリをきっかけとして犯罪に巻き込まれるというケースも多発しています。新しい手口のサイバー犯罪が増える中、事件や犯罪を未然に防止する広報活動の重要性はますます高まっています。 県民の皆様一人ひとりに我々の声を届けるために、講演でお話したり、LINE配信をしたりとあの手この手で積極的に広報しているつもりですが、まだまだ力不足で伝えきれていない部分もあります。これからも、タイムリーで、正確で、伝わる広報に向けて努力を重ねてまいります。 そして、今回のサイバーセキュリティアワードの受賞をきっかけに長崎県警のLINEアカウントをより多くの方々に知っていただければ本当にありがたいと思います。
——個人の力と組織の力の掛け算で長崎県警LINEアカウントが運営されていることがよく分かりました。今後の発展を楽しみにしています。ご受賞、おめでとうございました。
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長崎県警察サイバー犯罪対策課LINE公式アカウント
運営:長崎県警察本部生活安全部サイバー犯罪対策課
2019年に開設し、サイバー犯罪の被害防止に関する情報を配信している。公式キャラクター、漫画、かるた形式などで親しみやすい内容とするほか、ビジネスLINEアカウントの自動応答機能を利用した参加型クイズも定期配信。2024年12月末時点で登録者数は6,304人。
作品紹介サイト
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サイバーセキュリティアワード2025の表彰式が3月3日に開催され、大賞1件、部門別最優秀賞4件、部門別優秀賞9件の栄誉が称えられた(表彰式レポートは こちら)。企画部門 優秀賞に輝いた「長崎県警察サイバー犯罪対策課LINE公式アカウント」を担当する長崎県警察本部生活安全部サイバー犯罪対策課 調査官の佐藤修一さんとサイバーセキュリティ対策係の濵﨑椎南さんに、受賞の受け止めを聞いた。(聞き手はサイバーセキュリティアワード事務局、以下敬称略)